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 おいもだよりウラコラム    2020年1月17日(金) [おいものせなか通信]

     利他と照一隅
                          2020.1.17   

 昨年12月は、たてつづけに心を揺さぶられ、そして、考えさせられることの多い月であった。

 うちで主催の映画「パパ、遺伝子組み換えってなあに?」の上映会で、あらためて環境にも人体にも悪影響が懸念される遺伝子組み換え食品が知らないうちにどんどん入ってきているという事実を知った。ラットの実験では、食べ続けさせて1年後に肝臓や子宮に多くの腫瘍ができた。でも、大抵の人は無関心。私たちはまず知ること、そして何をどう食べるかを考えなくては。


 12月4日、アフガニスタンの飢餓や貧困を救うために、35年間尽力されてきた医師の中村哲さんが銃撃された。本当に残念で、毎日ニュースをチェックしたが、意外にメディアが取り上げず、市内の本屋にも著書が一冊もなかった。「誰もそこへ行かぬから、我々がゆく。誰もしないから、我々がする」と、辺境の山岳地域にも診療所を作り、2000年の未曽有の大旱魃にいのちの水をと1600本の井戸を掘り、用水路を7年かけて完成させ、1万6千㌶を緑の農地に回復して、周辺の60万人が生活を取り戻した。マザー・テレサに匹敵するくらいの偉業を成し遂げてきた人だと思う。しかし、一体日本人の関心はどこにあるのか…。


 年末のテレビで、性暴力と闘うコンゴのデニ・ムクウェゲ医師の「沈黙は共犯 闘う医師」のドキュメタリー番組に衝撃を受けた。武装勢力の女性への性暴力が、「一番安い戦争の武器」で「恐怖を植えつける戦略」として、女性の体の上で戦争が起きている現実。被害者は赤ちゃんから80才まで。生後6ヶ月の赤ちゃんは性暴力で内臓が完全に破裂。ほかにも性器の中で銃を発砲されたり、ガラス片を混入されるなどの残虐さ。性欲からではなく、共同体の中心である女性を破壊することで村を破壊し、子どもや女性をスマートフォンに使われる資源のコルタン(世界の8割がコンゴ)や金の採掘に奴隷のような労働をさせる。デニ・ムクウェゲ医師は20年間で10万人を治療し、うち性暴力を受けた女性を5万5千人治療したが、4万5千人は深刻な被害。レイプされて生まれた子がレイプされる性暴力の連鎖に、世界に声を届けようと、招待された国連のスピーチの帰国後銃撃され、自分をかばってくれた警備員が頭と背中を撃たれて死んだ。まさに、今もいのちをかけて、理不尽な不平等と闘っている。


 これは、2004年の花巻市の宮沢賢治学会イーハトーブ賞で中村哲さんが、受賞式に現地から送ってきたメッセージの一節。

 「(前略)幾年か過ぎ、様々な困難―日本では想像できぬ対立、異なる文化や風習、身の危険、時には日本側の無理解に遭遇し、幾度か現地を引き上げることを考えぬでもありませんでした。でも自分なきあと、目前のハンセン病患者や、旱魃にあえぐ人々はどうなるのか、という現実を突きつけられると、どうしても去ることが出来ないのです。(中略)

 よくよく考えれば、どこに居ても、思い通りに事が運ぶ人生はありません。予期せぬことが多く、「こんな筈ではなかった」と思うことの方が普通です。賢治の描くゴーシュは、欠点や美点、醜さや気高さを併せ持つ普通の人が、いかに与えられた時間を生き抜くか、示唆に富んでいます。遭遇する全ての状況が―古くさい言い回しをすれば―天から人への問いかけである。それに対する応答の連続が、即ち私たちの人生そのものである。その中で、これだけは人として最低限守るべきものは何か、伝えてくれるような気がします。それゆえ、ゴーシュの姿が自分と重なって仕方ありません。(後略)」


 ライターの稲垣えみ子さんは、「中村さんは余裕があったから人を助けたわけではないに違いない。(中略)訃報に際し、多くの人が『かけがえのない人を失った』と語った。でもそんなことを言っている場合じゃない。我々誰もが『かけがえのない人』になれるし、またならねばならないのではないか。中村さんの人生はそのようなことを我々に問いかけたのではないだろうか」と。

 世界で起こっている問題は、自分とは無関係ではない。自分たちの問題だと受け止める感性や想像力。民族、人種、性別、障害者など、たとえちがう立場の人でも、差別や偏見を持たずに相手を尊重し、自分と同じ人間だと思えれば戦争はできない。


 中村哲さんの座右の銘が、「照一隅=一隅を照らす」だと知った。「照一隅」とは、お金や財宝は国の宝ではなく、自分の置かれた場所で精一杯努力し、明るく光り輝くことのできる人こそ、何物にも代えがたい貴い国の宝だという意味だそうで、中村さんはよく講演で、「自分の身の周りから、一つ一つ照らしてゆくことが大切だ」と話されていたそうだ。

 デニ・ムクウェゲ医師は、2018年ノーベル平和賞を授賞し、「世界の悲劇に背を向けるのは共犯です」「性暴力を続けさせているのは、社会の無関心とタブー視と沈黙。沈黙を破ることが性暴力に対する絶対的な武器になる」とスピーチした。

 昨秋の来日講演では、好きな日本の言葉「利他」を掲げ、「人生で大切なのは、自分のことだけを考えないということ。他者の人生をより良くするために、他者の苦しみを和らげるために、自分には何ができるのだろうかと考えるということです。そうすると自分が損したように感じるかもしれませんが、何も失ってはいません。あなたはもう大きな恵みを受け取っているからです」 



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りかお

いつもお世話になっています。
昨日お店に行ったとき、看板が綺麗になっていると思ってましたよ!
あと、ネパール行ったことないですがネパールの絵が好きなので
個人的な好みになっちゃいますけど、わたしは好きです。
コージさんの絵のセンス、大好きです^^

by りかお (2020-01-24 22:18) 

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